新卒から4年間働いた百貨店を退職します③【百貨店のこれから編】
■結論
百貨店のこれから進むべき道は、
・縮小均衡
・百貨店事業の縮小・不動産業への転換
新卒から4年4か月働いた会社(大手百貨店)を 退職することになった前回の話はこちらから↓
このブログを読んでくれている百貨店関係者の皆様へ
この記事は、
ぼくが、百貨店がこれからどうしていくべきなのかという妄想を吐き出したものです。
ブログを始めて2年、数は少ないながらも、同業界で働く方から共感のコメントをもらったり、
同じ会社の会ったこともない後輩社員からメッセージが来たり、
「百貨店 将来性」が、最も多い検索流入キーワードになったりするなど、
百貨店関係者に読んでいただいているようです。
今回は、その方々に向けた最後の記事になります。
どうしてもイタい内容になってしまうと思いますが、
誰かに伝わって、くれればいいなと思って書きます。
タイムリミットはあと5年
上記の記事では、
百貨店・大手4社(三越伊勢丹/高島屋/J.フロント リテイリング/エイチ・ツー・オー リテイリング)の21年3月期(2月期)の決算と、最新の中間決算の現金預金をもとに、あとどのくらいで現金預金が枯渇するか(=各社の余命)を試算しています。
※試算の前提
・売上総利益は、コロナ以前の7割。
・販管費はコロナ以前の8割。
結果は下記の通りです。
三越伊勢丹:5年9カ月
高島屋:8年
フロント リテイリング:5年3カ月
エイチ・ツー・オー リテイリング:11年5カ月
コロナ後の経済回復を全く考慮していない、めちゃくちゃにざっくりな試算ではあるのですが、「仮にこのままいったらこうなる」という目安としては参考になると思います。
百貨店業界は斜陽産業と言われて久しいですが、
(ぼくが勤務していた百貨店の部署の先輩(40代中盤)が入社したときから、そんな空気がすでにあったそうです。)
長年勤めてきた百貨店社員からすると「ついにここまで来たか...」という感じではないでしょうか。
タイムリミットはあと5年、それまでに利益構造を抜本的に変えなければ生き残ることはできない、と考えていたほうがいいでしょう。
①長期的には縮小均衡を目指すべき
1社何千人も抱える経営陣からはこんな言葉は口が裂けても言えないことですが、
ぼくはもう部外者なのではっきりと言えます。
日本人の総所得に対して、百貨店は多すぎます。
もっと言うと、地方の百貨店は必要ないと思います。(一部の地方中枢都市は除く)
地方百貨店が消える理由、相次ぐ老舗百貨店の倒産は「市場消滅」の前兆か? 【連載】成功企業の「ビジネス針路」|ビジネス+IT
以下2点が理由です。
・日本の総人口が減少している。(特に、人口流出により地方の人口が減少している。)
・中間層の所得が減少している。
→そもそも需要が少なくなっているし、ショッピングセンターやアウトレットと差別化できていない百貨店は存在意義が見いだせない。
「東京・大阪・その他一部の中枢都市にだけ、店を構え、希少性を上げ、
オンラインストアを拡大させることにより、
売上も大きく下がるが販管費も下げることによって利益を毎年出す」
という形が理想的であると考えます。
もちろん、雇用を守るという最大の課題もあります。
それについては、②で書く不動産業、その他新事業への配置転換をしながら、
なんとか出血を少なくし、徐々に徐々に高度を下げながら着陸させるしかない...と思います。
②百貨店事業の縮小・不動産業への転換
「百貨店業を縮小させ、不動産業への転換を進める」
こと。
ぼくはこれが百貨店が、百貨店という形をできるだけ残すことができる唯一の道だと思っています。
現在、沈みゆく百貨店業界には2つの大きな動きがあります。
(1)「サービス」という百貨店の武器を磨き直し、百貨店道を極める。
百貨店が他の小売店より唯一秀でているサービス力を生かし、コンシェルジュサービスなどで、ネット通販や他の小売業と差別化し、活路を見出そうとする動き。
具体的企業:三越伊勢丹
(2)「脱百貨店」不動産業に転換
「百貨店」という形にこだわらず、テナントを入れ、安定した賃料収入を得る不動産業へ転換していこうという動き。
具体的企業:J.フロントリテイリング(大丸松坂屋·パルコ·GINZA SIXなどを運営)
ぼくはこの2つの要素がどちらも重要だと思っています。
ぼくが予想する百貨店の将来像は、
本店レベルの旗艦店(銀座三越·新宿伊勢丹·日本橋高島屋·松屋銀座など)
→「ハイレベルなコンシェルジュサービス」や「レトロ感」を売りにした店舗
都心店も含むその他の百貨店(西武渋谷·新宿高島屋·千葉そごうなど)
→百貨店要素を5%だけ残したテナントビル
このような形です。
不動産業への転換、つまり「ショッピングセンターを作るデベロッパー化」が有効であるということは、すでにJフロントリテイリングが証明しています。
一方で、ぼくは本店レベルの旗艦店には2種類の需要が見込めると考えています。
ひとつめは「ハイレベルなコンシェルジュサービス」です。
すでに百貨店には外商という他の小売店にはない富裕層向けのサービスがあり、
強力な収入源になっています。
アイテムやブランドの垣根を越えて商品やライフスタイルを、マスだけではなく個人に提案できるのは百貨店の強みです。
そういったコンシェルジュサービスを店頭でも強化できれば、
とても強力なサービスになると考えます。
ふたつめは、「レトロ感」です。
おそらく、数十年後、小売業の中で最後まで人がレジを打っているのは
百貨店だと思います。
50年後の地方から東京に観光しに来た若いカップルが
「百貨店ってまだ人が接客してるらしいよ!面白そうだから行ってみようよ!」
という感じで、残り僅かな数になった百貨店に来るという未来をぼくは予想しています(笑)
現在でも、日本橋高島屋や日本橋三越の建物が重要文化財に指定されるなど、
レトロ感を感じられる内装や外装の店舗がいくつかあります。
また、エレベーターガールもその要素のひとつです。
100年以上の歴史がある「老舗百貨店」というブランドも相まって、
こういった魅力は未来にも残り続けるだろうと思います。
以上に加え、
・高所得のお得意様を多く抱えているという強みを生かした周辺事業の展開
→金融サービス、不動産サービスなど
・ショッピングセンターに限らない広い範囲(オフィスビル、ホテル、・リゾートなど)を取り扱うデベロッパーになること
なども有効であると考えています。
若手を抱える百貨店の先輩社員へ
今年だけで、
ぼくの同期が4人退職しました。
近い年次の先輩・後輩も、退職するという話を何件か聞きました。
それだけ、今百貨店業界の転職市場での優位性が弱まってしまっているということだと思います。
このままだと、業界全体がベテランだらけの、新しい風が入らないという、非常に不健全な状態になってしまうのではないでしょうか。
最後に、ぼくが退職する前の最後のチームミーティングで話した内容を
ここにも書きたいと思います。
「若手に裁量と責任を持たせてください。
ぼくたち、特にアベノミクスの好影響を受けた2013~2020年入社の世代は、
百貨店不況が叫ばれて久しいこの時代に「あえて」百貨店を選んで入社した世代です。
つまり、なにか百貨店自分でやりたいことがあって入社してきた人が多いということです。
ぼくもそうでした。
コロナで本来業務以外の業務も多くなってしまい、
とても大変な状況ではありますが、若手がやりたいことに取り組める環境をどうか少しでも残してあげてください。
どうかよろしくお願いします。」